トマトの育て方を調べていると、「栄養成長」と「生殖成長」というワードをよく見かけるのではないでしょうか?
この2つの成長はトマトを栽培する上で欠かせない重要なポイントです。
トマトを作って上手くいかなかった人、これから家庭菜園でトマトを作ってみようと思っている人は、この記事を読むことをおすすめします。
トマト農家の私が初心者でも分かるように解説します!
栄養成長と生殖成長の違い
植物には「栄養成長」と「生殖成長」の2つの成長が存在します。
それぞれの成長の特徴と違いについて解説します。
栄養成長とは
栄養成長は、トマトの根や葉っぱ、茎などの体を作る成長のことを指します。
人間で例えると、食べ物を食べて体を大きくしたり、子供から大人になるにつれて身長が伸びたりすることです。
生殖成長とは
生殖成長は、トマト花や果実を付けるなどの、子孫を残すための成長のことを指します。
人間で例えると、子供を作るための準備、つまり生殖器官の成長です。
植物は栄養成長と生殖成長のバランスが大切
トマトなどの植物は、この2つの成長のバランスで生育状態や収穫物の量が決まってきます。
どちらかに傾いてしまうと大きく育たなかったり、果実が収穫できなくなってしまったりします。
トマトを育てる際に、最も重要視する基本的なポイントなのです。
栄養成長に傾くとどうなるのか
では、栄養成長に傾くとどうなるのか。これは人間で言う、食べ過ぎで太ってしまっている状態です。
人間でも太りすぎると、「メタボ」や「生活習慣病」のリスクが高まりますよね。
それと同様にトマトや植物にも栄養成長に傾くことによって、生育に影響が出ます。
樹が育ちすぎる
トマトは栄養成長に傾くと、葉や茎が必要以上に大きく育ち、暴れたような樹姿になります。
このように、樹が暴れて葉っぱが茂りすぎている状態を「過繁茂」と呼びます。
過繁茂になると、葉が邪魔になって管理がしにくかったり、良質な果実が付かなくなったりする症状が出るのが特徴です。
果実が付かない、大きくならない
栄養成長に傾く時はほとんどの場合、与える水や肥料の量が多いことが原因です。そして、生殖成長が疎かになります。
この時にトマトは、「栄養たっぷりあって枯れる心配は無いから、まだ種を残すことは考えなくていいな~」と考えています。
子孫を残すことに消極的なため、果実が実らなかったり、実ったとしても大きくならず小さいまま収穫期になったりします。
生殖成長に傾くとどうなるのか
栄養成長ではなく、生殖成長に傾いた場合はどうなるのでしょうか。
これは人間に例えると、栄養が不足していて体力が低下している状態です。
この状態では、妊娠、出産をすることが困難ですよね。トマトにも同じことが起きます。
樹が細く弱々しくなる
生殖成長に傾くと、栄養成長が疎かになるため、十分に葉や茎が育ちません。
葉っぱが育たないと光合成でも上手くできないので、体内で作られる栄養が少なくなり、弱々しい姿が続きます。
大量の花が咲く
トマトは体力が低下してくると、「自分が枯れてしまう前に子孫を残さなければ」と考えるようになります。
子孫を残すためには種を作る、つまりは果実を付けなければなりません。
そのために急に大量の花を咲かせるようになります。
決して元気があるから咲かせているのではなく、「最後の力」を振り絞って咲かせている状態なのです。
栄養成長と生殖成長のバランスが取れた理想の生育状態
栄養成長に傾いても、生殖成長に傾いてもトマトには良くないことが起きます。
良質なトマトを多く収穫するためには、2つの成長のバランスをとることが大切です。
2つの成長のバランスが取れて釣り合っている生育状態は、次の3項目から判断できます。
- どの段も3~4果ほど着果していて順調に肥大している
- 樹の太さが一定(急に太くなったり細くなったりしていない)
- 一番上の花が咲いている時、そのすぐ下の茎の太さがボールペンほど
トマトを作り始めてすぐには見て判断することが難しいかと思います。
毎年トマトを観察し続けることで、トマトにとって丁度いい生育状態がわかってきます。
あくまで目安としてこの3つに気を付けて観察してみてください。
それでもバランスが崩れてしまった時の対策方法も紹介します。
栄養成長に傾いてしまう原因と対策
栄養成長に傾いてしまう原因と対策方法を紹介します。
原因① 生育初期の水と肥料の量が多すぎる
生育初期と言うのは、定植してすぐからのことを指します。
定植してすぐは、花も十分に咲いていないはずなので、体を作る栄養成長が強くなります。
その状態の時に水や肥料を多く与えてしまうと、一気に吸収してあっという間にモリモリと育ってしまいます。
対策
トマトの苗を植えたばかりの頃は、定期的に水を与えることを控えましょう。
トマトの根は水のある場所に向かって伸びていくので、水を控えた方が自分の力で根を長く伸ばしていきます。
萎れていたり、朝早くにトマトを見た時、葉っぱに露が付いていなかったりした場合は、そろそろ水が欲しいという合図なので潅水(水をあげること)を開始しましょう。
原因② 1段目の果実が着果しなかった
最初に咲く1段目の花には確実に果実を着果させるようにしましょう。
ここで果実が付かないと、生殖成長にスイッチが入らず、栄養成長ばかりが進んでしまいます。
最初の1段でその後の生育が順調に進むかが決まってきます。
対策
確実に着果させるため、花を手で触って受粉させたり、トマトトーンと呼ばれるホルモン剤を使ったりしましょう。
風や虫が自然に受粉させることもありますが、1段目だけは確実に着果させるために、人工授粉やホルモン剤による着果がおすすめです。
栄養成長に傾いてしまった時の対策
既に樹が強く育ってしまった場合は次のことを試してみましょう。
- 葉っぱの量を減らす
- 1段目以外にも人工受粉やホルモン剤の使用をする
葉っぱを取って減らすと、光合成で作る栄養が減るので、少しずつ通常の樹に戻していくことができます。
樹勢が強い時は果実があまり付かず、生殖成長が弱い場合が多いので、果実の着果を確実にしていくことも有効です。
生殖成長に傾いてしまう原因と対策
次は、生殖成長に傾いてしまう原因と対策について紹介します。
原因① 水と肥料が足りない
単純に水と肥料が足りないと、体力のない樹になってしまいます。
生育初期の多潅水、多肥料は避けなければいけませんが、その後の水と肥料の不足は生殖成長ばかりを進めてしまいます。
対策
生育初期の潅水量に注意しつつ、トマトが順調に生育してきたら、生育段階や気候に応じて水と肥料の量も増やしていきましょう。
植えたばかりの頃の水の量はコップ1杯で済むかもしれませんが、大きく育ったトマトには真夏に3L近い水が必要になることもあります。
トマトをよく観察して、水と肥料が不足しないようにしましょう。
原因② 果実を多く付けすぎた
1段に5果や6果も付けていると、果実が付きすぎている負担で、栄養成長に使う栄養が足りなくなってしまいます。
果実が付かないのも生殖成長に傾きますが、付きすぎているのも問題です。
対策
着果していることを確認したら、1段についている果数を減らしましょう。
3果ほどであれば減らす必要はありませんが、それ以上付いていると負担がかかりすぎます。
特に、1~3段目は多くても3果にするように徹底しましょう。
生殖成長に傾いてしまった時の対策
生殖成長に傾き、樹が弱ってしまった時は次のことを試してみましょう。
- 毎日潅水の際に、少量ずつ肥料(窒素)を与える
- 果実を思い切って減らす
樹勢が弱くなったときは肥料(窒素)を増やす必要がありますが、一度に大量の肥料を与えることは逆効果です。
1日に大量に与えるのではなく、肥料を与える回数を増やしましょう。
それと同時に、付いている果実を思い切って取ってしまうのも効果があります。
1段に3果ついているなら2果に、2果でも弱くなっているなら1果に。ここで減らさなければ、上の段で全く果実が付かない可能性もあります。
栽培後半でも収穫ができるように思い切った行動をする勇気も大切です。
まとめ
栄養成長と生殖成長はトマトを作る上で最も大切になってくるポイントです。
初めはそのバランスを取ることが難しいかもしれません。私も完璧にはできません。
完璧にできなくても、2つの成長についての知識があるのとないのとでは違ってくるはずです。
この記事を参考にして、美味しいトマトをたくさん収穫してみましょう!